コルンゴルトと映画音楽
映画(一般的に認識されている洋画)において、音楽の成す役割は大きい。オーケストラが演奏するやつだ。
映画音楽と20世紀以降のクラシック音楽を、(ロマン主義的な面で)区別をつけるのは難しい。これは、履修科目における日本史の戦後部分と現代社会の関係に似ているかもしれない。
20世紀半ばに活躍した作曲家に、エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトという人がいる。
オーストリアに生まれ育ったが、ユダヤ系だった彼はナチスが台頭した時代に翻弄され、アメリカに渡った。
そして、ハリウッドで映画音楽の基礎を作った。マーラー等の後期ロマン派的手法を映画音楽に応用し、このジャンルにおけるスタンダードを作った人物である。
スター・ウォーズやインディ・ジョーンズ、ジュラシック・パーク等の作曲で知られる、ジョン・ウィリアムズにも影響を与えた。
しかしクラシック音楽家としての名声はあまり大きくない。彼のロマン主義的な音楽は、前衛音楽が席巻していた当時の楽壇では「時代遅れ」のものだった。
加えて、一度映画音楽家に転身したためか、映画音楽家になる前の曲も評価されていない。晩年ウィーンに帰ってきた後の曲も「映画音楽家」のレッテルを貼られ、評判は低かった。
当時のクラシック音楽関係者は、映画音楽を明らかに下に見ていたようである。結局アメリカに戻り、失意のうちにその生涯を閉じることになる。
当時隆盛を誇った前衛音楽は、今では全く忘れ去られている。ごく単純に言えば、コルンゴルトは生まれた時代が悪かった。
ロマンチックで絢爛な音楽は、当時の楽壇に受け入れられなかった。
「コルンゴルトとその時代」という本に、詳しいことが書いてある。

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コルンゴルトは戦争や冷戦といった情勢、そして前衛音楽という、時代の餌食になってしまった。
今を生きる我々は、公正な評価をしなければならない。
彼の代名詞とも言えるのが、ヴァイオリン協奏曲だ。動画は第3楽章である。
この曲は映画音楽からメロディが転用されておるが、先に述べた理由からニューヨークで初演された当時は評価が悪かったようだ。
(初演は動画と同じ、ヤッシャ・ハイフェッツにより行われた。)
しかし彼の音楽が再評価された今、彼の曲で最も有名な作品のうちの一つになっている。ロマンチックで伸びやか、闊達にして甘美な彼の代表作だ。
よく「コルンゴルトの音楽は映画音楽のようだ」と言われるが、厳密に言うとそれは違う。
単に彼の音楽が、映画音楽のスタンダードになったまでのことである。
コルンゴルトが先にいて、映画音楽は彼の手によって後から出来たものなのだ。