諏訪内晶子さんの魅力と、アーティストに求められる力
僕の母親はクラシック音楽が好きで、CDを買ってきてはよく聴いていた。諏訪内晶子さんというヴァイオリニストが好きで、CDを何枚か持っていた。
チャイコフスキー国際音楽コンクールを史上最年少で制した人だが、当時の僕はCDジャケットを見ながら「めっちゃ美人」ぐらいにしか思っていなかった。相変わらずである。
しかし自らが年を重ね音楽を聴くようになり、良さが分かってきた。鋭くしなやかな音、完璧なテクニック、集中力が張り詰めているはずなのに余裕すら感じる。
自伝があると分かり本を借りて読んでみたが、これがとても面白い。
18歳で世界の頂点に立ってから、留学等を経て5年後に書かれた本だ。これが果たして当時23歳の若者が書いた本なのか?!と驚くほど信念がしっかりしている。

- 作者: 諏訪内晶子
- 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
- 発売日: 1998/12/10
- メディア: 単行本
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素晴らしいのは編集技術故だろうか?いやそんなことはないだろう。根拠はないが。
アーティストというのは、芸術作品を通して自分を表現する者だ。先人の残した音楽は、楽譜にすると記号の域を出ない。その記号を解釈して、自分なりの一番良い表現で音として表明していく 。
本を書く時、伝わりやすい表現で感心もさせるのは至難の業だが、彼女はそれを会得していたようだった。
本は読んでもらうとして、演奏のおすすめはブルッフのスコットランド幻想曲だ。多分24歳ぐらいで録音されたものだと思う、彼女のデビューCDという位置づけだ。

Bruch: Violin Concerto NO.1/Scottish Fantasy
- アーティスト: 諏訪内晶子,ブルッフ,マリナー(サー・ネヴィル),アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ
- 出版社/メーカー: マーキュリー・ミュージックエンタテインメント
- 発売日: 1996/10/02
- メディア: CD
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この曲はヤッシャ・ハイフェッツによる演奏というマイルストーンがあるが、デビューCDでこれは、今の活躍を予見でき得る内容だ。
楽器が、彼女が現在使用しているストラディヴァリウスの「ドルフィン」でないのが残念だが、素晴らしい演奏である。
はっきり言って完成された演奏ではないと思う。若干迷いのようなものもあるかもしれないが、それも良い方向に行っているのは曲のおかげか。
音楽の面白いところは、必ずしも若いこと=ダメなことではないところである。肉体的な頂点はもちろん若い頃にあるし、年を重ねれば解釈に深みが出るとは限らず、五里霧中で自滅するようなケースもある。
他の演奏ではシベリウス、チャイコフスキーの協奏曲辺りが月並みだが良い。小品ならサラサーテのカルメン幻想曲だろうか。
彼女の演奏スタイルとは相反する気もするが、幻想的で奔放な音楽が合うような気がする。
一度でいいから、生で聴いてみたいものだ。