風のままに進むんだ

美しく帆を張れ!ここに書いたものが遺言だー!

諏訪内晶子さんの魅力と、アーティストに求められる力

僕の母親はクラシック音楽が好きで、CDを買ってきてはよく聴いていた。諏訪内晶子さんというヴァイオリニストが好きで、CDを何枚か持っていた。

チャイコフスキー国際音楽コンクールを史上最年少で制した人だが、当時の僕はCDジャケットを見ながら「めっちゃ美人」ぐらいにしか思っていなかった。相変わらずである。

しかし自らが年を重ね音楽を聴くようになり、良さが分かってきた。鋭くしなやかな音、完璧なテクニック、集中力が張り詰めているはずなのに余裕すら感じる。

自伝があると分かり本を借りて読んでみたが、これがとても面白い。
18歳で世界の頂点に立ってから、留学等を経て5年後に書かれた本だ。これが果たして当時23歳の若者が書いた本なのか?!と驚くほど信念がしっかりしている。

ヴァイオリンと翔る

ヴァイオリンと翔る

クラシック音楽に全く興味がない人にも分かりやすいだろう平易な文章と表現、極限の努力と臨場感を伝える言葉選び、演奏と同じぐらい完璧だ。
素晴らしいのは編集技術故だろうか?いやそんなことはないだろう。根拠はないが。

アーティストというのは、芸術作品を通して自分を表現する者だ。先人の残した音楽は、楽譜にすると記号の域を出ない。その記号を解釈して、自分なりの一番良い表現で音として表明していく 。
本を書く時、伝わりやすい表現で感心もさせるのは至難の業だが、彼女はそれを会得していたようだった。

本は読んでもらうとして、演奏のおすすめはブルッフスコットランド幻想曲だ。多分24歳ぐらいで録音されたものだと思う、彼女のデビューCDという位置づけだ。

Bruch: Violin Concerto NO.1/Scottish Fantasy

Bruch: Violin Concerto NO.1/Scottish Fantasy

この曲はヤッシャ・ハイフェッツによる演奏というマイルストーンがあるが、デビューCDでこれは、今の活躍を予見でき得る内容だ。
楽器が、彼女が現在使用しているストラディヴァリウスの「ドルフィン」でないのが残念だが、素晴らしい演奏である。
はっきり言って完成された演奏ではないと思う。若干迷いのようなものもあるかもしれないが、それも良い方向に行っているのは曲のおかげか。

音楽の面白いところは、必ずしも若いこと=ダメなことではないところである。肉体的な頂点はもちろん若い頃にあるし、年を重ねれば解釈に深みが出るとは限らず、五里霧中で自滅するようなケースもある。

他の演奏ではシベリウスチャイコフスキーの協奏曲辺りが月並みだが良い。小品ならサラサーテカルメン幻想曲だろうか。
彼女の演奏スタイルとは相反する気もするが、幻想的で奔放な音楽が合うような気がする。

一度でいいから、生で聴いてみたいものだ。